Sequential 創立 50周年を記念して、Sequential Circuits の歴史を深く掘り下げた『The Prophet from Silicon Valley』の著者 David Abernethy(デビッド・アバネシー)氏によるゲスト投稿をご紹介します。アバネシー氏は、この本の取材中に個人的な経験から得た舞台裏の独占的な洞察を披露しています。これは、啓発的な3部構成シリーズの第1部です。
『The Prophet from Silicon Valley』の知られざる物語 パート1
私が書いた『The Prophet from Silicon Valley』の「Story Behind the Book(本の裏話)」のセクションで、私は「とんでもない旅だった」と書いた。取材は、もちろん Skype で行う手もあったが、遠くまで行き、直接会う対面インタビューの方が断然ベストだった。その道中には多くのハイライトもあったが、その中でも特に印象に残った2つのエピソードを紹介しよう。
まず、2013年3月、私は1週間ほどシリコンバレーに滞在していた。明るく晴れた土曜日の朝、私は、元 Sequential Circuits のソフトウェア・エンジニアである Josh Jeffe(ジョシュ・ジェフ) に会うために、サンフランシスコのダウンタウンにあるカフェへと向かった。とにかく、出発するだけでも私にとっては冒険だった。車の運転で道の反対側を走るなんて間違っているように思えた。なぜなら、ニュージーランドでは左側通行が常識だからだ。言うまでもなく、私は TomTom(カーナビ) に集中しながら車を運転した。
それで、カフェを見つけ、駐車場も見つけ、ジョシュと私はカフェの中でお互いを見つけた。カフェは素晴らしい待ち合わせ場所なのだが騒がしいのが問題だ。このカフェのひどい騒音の中で、ジョシュには特に VS についての質問やインタビューを行った。努力した甲斐もあり録音は上手く行った。ありがとう、ジョシュ! その後、橋を渡ってマリン郡へ行き、Denny Zeitlin(デニー・ツァイトリン)と昼食をとった。デニーは、1978 年版の「The Invasion of the Bodysnatchers」のサウンドトラックを作る際にオリジナルの Prophet 10 と格闘したことなど、またこれも素晴らしいインタビューになった。
昼食後、Suzanne Ciani(スザンヌ・チアーニ)にインタビューするため、丘を越えて太平洋に向かい、人里離れたボリナスのコミュニティまでドライブをした。崖の上の標識のない道路のひどく狭く曲がりくねったカーブを通り抜けた後、スザンヌから聞いた詳細な指示に従い、ようやく地元のテニスコートまでたどり着いた。試合を終えたばかりの彼女は、ボリナス・ビーチを手短に案内してくれた(とても美しい場所だが、ボリナスの人は海辺の土地をとても大切にしているので内緒だ)。その後、丘を登って彼女の家に戻り、Prophet について話をした。
かなり長いインタビューだったが、スザンヌとは終始、Prophet に関する素晴らしい話で盛り上がり、その中にはすべてがうまくいかなかったあの有名な『レイト・ショー・ウィズ・デイヴィッド・レターマン』 (Late Show with David Letterman)」の出来事も含まれていた… 一日の終わりに寒くなってきたので、スウェットシャツを取りに車に飛び出したら、前庭をのんびりと歩き回り、何かをむしゃむしゃ食べている鹿と対面した。「ああ、そうそう、熊もいるのよ」とスザンヌが教えてくれた。
日が沈む頃、私はシリコンバレーへ戻る長いドライブを始めた。不思議なことに、街を通り過ぎると、TomTom のナビゲーションが機能しなくなった。TomTom に、「連絡を返してくれ!」と懇願しながら南に向かった。ふぅ、ようやく連絡が取れた。そして、私はまだ右側を走っている。すべてが思い出深い一日だった。
もう 1 つ印象に残ったのは、イングランド南西部のデヴォン州にある小さな村、クレディトンに行った日のことだ。まずロンドンに行かなければならなかったが、到着すると Tony Banks(トニー・バンクス)のマネージャーからメールが届いた。「はい、トニーが喜んでお話しますので、数日中に電話をします。」と。素晴らしい!よし、その間にクレディトンへ出発だ。ロンドンからエクセターまで「大きな」列車(Gordon?)に乗り、それからクレディトン行きの「小さな」列車(Thomas?)に乗った。そこで出迎えてくれたのが、the Cure のキーボーディスト Roger O’Donnell(ロジャー・オドネル)だ。私たちは、ロジャーの自宅スタジオで数時間、Prophet の話をしたり、彼が持つ古い機材の写真を撮ったりした後、彼は Peter Forrest(ピーター・フォレスト)の家まで車で送ってくれた。送ってくれてありがとう、 ロジャー!
ピーターは、『A-Z of Analogue Synthesisers』と言う本をまとめていて、Prophet などについて話をした後、彼は本の最新版を持っていることを明かしてくれた。素晴らしい!午後遅く、彼は私に駅の方向を教えてくれ、私はロンドンに戻った。さて、私は携帯電話を注意深く監視するタイプではない。どこにあるかは知っているが、たいてい普段は無視している。しかしこの日は、電車の騒音の中でも実際に電話が鳴ったときに聞こえるように、携帯電話をジャケットの胸ポケットに入れておいた。そして電話が鳴った。
電話に出ると、トニー・バンクスからだった!「Prophet について話したいと言っていましたね…」とか、そんな感じの言葉だった。私は「はい」と返事をしたが、「ちょうど電車に乗っているので明日はどうでしょうか?」と言い、「では、明日の朝9時に電話します」と彼は答えた。私は飛び上がって、車内にいた他の乗客に、『やぁ、今、トニー・バンクスとおしゃべりしていたところだよ!』と宣言したい気分だった。翌朝 9時きっかりにトニーから電話があり、また別の啓発的なインタビューが始まった。
私はこの本のために、ミュージシャン、元 Sequential のスタッフ、業界のライバル、作家など、かなりの数のインタビューを行ったが、全ての人が Prophet について熱心に語り、当時を懐かしんでいることにいつも驚かされた。テクノロジーを推し進め、課題を克服し、前代未聞の結果を得て、未来の音楽への道を切り開いたという実感があった。先駆的なもの。そして素晴らしいノスタルジアの旅だ。
デビッド・アバネシー 2024年1月
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